相容れない二人の恋の行方は
 しばらくしてじっと見入っている自分にはっとして慌てて目を逸らした。
 その時だった。扉をノックする音が部屋に響いて扉を開けた。扉を叩いたのはまなみだった。

「来てたんだ」
「うん。そろそろ帰るから挨拶に」

 まなみが僕以外の人間に会いにウチにやってくることはよくある。特に最近は頻繁だった。
 僕は部屋を出てまなみと玄関まで向かった。

「あれー? 今日は吉井さんは?」
「こんな時間だよ。もう寝てるんじゃないかな。まなこそ。こんな時間まで出歩いていて大丈夫?」
「うん。瑛里華(エリカ)ちゃんがいつもちゃんと家に連絡入れてくれるから大丈夫」

 エリカちゃん、とはウチのメイド長のことだ。メイド長とは……倉橋のことだ。いつからだったか、気づけば家中の使用人全員がメイド服を着用するという異様な光景が広がっていた。さすがに今は慣れたが。

「今日のまな、いつもと雰囲気が違うね」
「わぁ! 分かる? 嬉しい! エリカちゃんに教えてもらったの。限りなくナチュラルに近いんだけど、大人きれいめに見えるメイクの仕方。これくらいなら学院にしていっても大丈夫でしょ?」
「うちはあまり身なりに対して厳しくないからね。常識をはずれるようなことをする生徒はいないし」
「千智はどうなの? こういう大人っぽい感じ好き?」
「いいんじゃないかな」
「いいんじゃないかな、って……。好きか嫌いか聞いてるのー。……そういえば、千智の好きなタイプって付き合い長いけどさっぱり分かんないや」

 頬を膨らませながら見上げてくるまなみに内心面倒だなと思いながら珍しく真面目に答える。

「タイプか。あまり考えたことはないけど。でも控えめな大人しい人かな。外見もまぁ、そんな感じ。手をかけて作っている人よりは素のままで寝癖がついていても平然としているような……。体型は特にない。あ、でもどちらかというと豊満な人よりは華奢で……」

 会話をしながら玄関につき、靴を履いたまなみが扉を開け外へ出る前に一度振り返った。

「ふーん。なんだかそれって吉井さんみたいな人だね! じゃあ、またね!」

 送迎のためにまなみのあとについて使用人が出て行き閉まる扉を眺めながら少しの間無意識に立ち尽くしていた。

 部屋に戻ると、先ほどと変わらない姿かたちで真由子が眠っていた。
 爆睡する彼女を見ながらさっきのまなみの言葉を思い浮かべるけどいまいちピンとこない。真由子みたいなのが僕のタイプ……?
 でも、たとえそうだとしたも何かが変わるわけではない。満足している僕たちの今の関係は変わらないし変えるつもりもない。
 ふとした疑問も一瞬で解決して、別の場所で眠るため部屋をあとにしようとするとあるものが目に付いた。
 よく見ると眠る真由子の下敷きになっているノートに、真由子のヨダレが垂れてついたあとが出来ていた。思わず一人で笑ってしまった。

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