相容れない二人の恋の行方は
 急速60キロのソフトボール。横一列に並ぶプレイルームの一番端っこで、私はバッドを構えていた。

「真由子~。飛んでくるボールをバッドで打つ遊びだろ~? いつバッドにボールが当たるんだよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。次こそ……えいっ!!」

 威勢のいい掛け声も虚しく、私が振ったバッドはすかっと見事に空を切る。

「しかも、他に比べてここだけ急速が遅くない? ボールも、大きいような気が……」
「気のせいです! ……はっ、来た。……えいっ!!」
「おぉ、見事な空振り」

 ベンチに座ってパチパチと楽しそうに手を叩く新谷をしり目に、勢い余って尻餅をついた私はそのまま大きく息を乱す。かれこれ30分くらいバッドを振り続けているけど……だ、ダメだ……全然当たらない。言うまでもなく、私は運動音痴だった。

「貸してみろよ。交代」

 プレイルームに入ってきた新谷が、私が使っていたバッドを拾い上げるとすぐさますかっとする快音が鳴り響き……

「おっ! 光った!」

 高く空中に浮いたホームランマークがピカピカときらびやかに輝きだした。オーディエンスからはパチパチと拍手と「すごーい!」という歓声が。
 い、一発で……ホームラン? 急速60キロのソフトボールを……

「ここじゃ球が遅すぎる。よし、もっと早い急速のとこ行くぞ」

 新谷は未だその場に座り込んだままの私を残してプレイルームを出て行った。ちょ、ちょっと待ってよ! 私も慌てて彼のあとを追う。
 そして……

「きっ……きゃああっっ!!! 怖い! 怖いぃぃ!!」

 なんと、このバッティングセンター内最速の160キロの速球が飛んでくるプレイルームに入った。正確には入れられた。……私が。
 びゅんびゅんと目にも留まらぬ速さで飛んでくるボールの恐怖に脚がすくんで、バッドを構えて立つことすらできない。

「何してるんだよ、真由子。ほら、今だ打て!」
「きゃーーーーっ!!」
「座ってたら打てないだろう。バッドにボールが当てられるまで帰らないからな」
「ひっひぃぃっ!」

 その言葉通り、私はバッティングセンターが閉店するまで、ひたすらバッドを握らされたのだった。
 このようにして始まった私の地獄のような夏休み一日目はまだまだ続く。

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