相容れない二人の恋の行方は

07 逃亡は失敗に終わる

 夏休みの間寝泊まりすることになっている新谷の自宅に戻ってきた頃にはすっかりと陽が暮れていた。玄関に入るとへたりとその場に座り込んだ。

「あー、楽しかったなぁ……って、真由子。どうした?」
「……いえ、なんでも……」

 運動が苦手な上に、普段からあまり身体を動かすと言う習慣がない私。それなのに準備運動もなくいきなり長時間バッドを握らされ振り続けた。疲労困憊。倒れそう……。

「おかえりなさいませ、千智様。お食事になさいますか?」
「ううん。先に風呂に入る。用意できてる?」
「かしこまりました。お湯の準備は出来ております」
「ありがと」

 新谷は使用人にそう告げると私を残しそのまま奥へと足を進めて行ってしまった。
 取り残された私はキョロキョロとあたりを見渡す。一面は大理石、高級そうな装飾品の数々、玄関を抜けた先には大きな螺旋階段。スペースに余裕のある大金持ちの家にあるイメージ通りのもの。……本当に、こんなテレビでしか見たことのないような立派なお屋敷に住んでいる人がいるんだ。
 人影が出来て見上げるとたった今新谷を迎えた使用人が立っていた。

「真由子さん、でしたよね。千智様のお風呂のご準備を教えますのでついてきてくださいます?」
「……は。そんなこともするんですか……?」
「えぇ」
「お風呂の準備って……ただタオルと着替えの準備を持っていくだけじゃ」
「そうです、それが私たちの仕事です」
「……」
「さぁ、行きましょう」

 私は重い身体にムチを打ってなんとか立ち上がると、にっこりと笑う使用人についていった。

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