相容れない二人の恋の行方は
 栄華学院の編入試験の帰り道だった。
 試験結果を待たなくても完璧に回答できた私は合格できる自信に満ち溢れ浮かれていた。都会に出てきてまだ数日。田舎育ちの私は都会の真ん中で迷子になってしまった。来た道を戻ろうにもはじめてみる光景ばかりが目に飛び込んできてどんどんと自宅からは遠のいて行っているのは分かっていた。
 一度立ち止まって、人に道を尋ねよう。
 そう思って周りを見渡すと、栄華学院とは違う制服を着た高校生が多く目についた。その生徒たちは心なしか柄が悪いようにも見える。
 母親から言われていた。隣町で最近大きな不良グループが度々暴れて問題を起こしているらしいから気をつけろと。その不良の多くが高校生だと。
 急に怖くなってきた私はとにかくまずはこの場を離れようと早足で足を進めた。
 でも進めば進むほど自分がどこにいるのかが分からなくなってきて、気づけば日も傾きかけ薄暗い怪しい路地裏にいた。

「あれー? コイツ、見かけねぇ制服着てるなぁ」
「ぎゃははっ! 今時あんな長いスカート、中学生でも着てないよぁ?」

 そして、バイク音と制服や私服姿の柄の悪い若者たちに囲まれていた……。 
 前の高校の制服を着ていた私が物珍しいのか馴れ馴れしい態度で近づいてきて、肩にまで手を回してくる男もいてすぐに振り払った。目的は金だろう。でも私の所持金は小銭のみ。正直に言って見逃してはもらえないだろうか。

「お、地味でダサイけど結構可愛い顔してんじゃん」
「あー、ほんとだー」

 三人に囲まれ一人に腕を捕われ、もう一人に顔にかかる髪を手で払われる。

「ちょ、やめてください……! 離して!」
「俺たちと遊ぼうよ~。いいことしよう?」
「なぁ、脱がしてみようか」

 想像を絶する事態に身が震えた。カツアゲじゃ済まない。犯される!?

「やっ! やだってば!!」

 泣きそうになりながら必死に抵抗した時だった。大きなバイクのエンジン音が近づいてきて自分のすぐそばで止まった。耳元で、私を拘束する男から「やば」という呟き声が聞こえた。

「なにしてんだよ、おまえたち」

 今までとは違う声が背後からしたけど、今の男に襲われそうになったあまりの恐怖に座り込んで顔を上げることができなかった。

「ち、千さ……! うわっ!」

 ドンと打ち付けるような音がして顔を上げると、私を拘束していた男の一人が胸ぐらをつかまれて自販機に押し付けられていた。

「オレ、そういう下衆なこと嫌いだって言ってるよな」
「ひ、ひぃっ、ごめんなさい……!」

 不思議な光景だった。
 あとから現れた男は、後姿しか見えないけど私にからんできた不良の男たちとは真逆の品のある外見。優等生が不良を脅しているような、違和感しかない光景だった。
 でも震える不良の顔を見れば、後から現れた男がどれほど怖い存在なのかは簡単に想像がついた。どんな顔をしているのだろう。胸ぐらをつかんだ男を解放するとゆっくりとこちらに振りかえった。
 柔らかな黒髪、白い肌、私を見下ろす瞳は涼やかでとてもも綺麗な形をしているけど突き刺さるような鋭さで、一瞬だけこちらに目を向けてすぐにふいっと逸らすと何も言わずに「行くぞ」と周りの男たちに言うと仲間が運転するバイクの後部座席に乗って走り去って行った。
 助かったとほっと胸を撫で下ろし、すぐに交番を探してなんとか自宅まで帰ることができた。

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