相容れない二人の恋の行方は
 無事に編入試験に合格し、栄華学院に通うことになった私は、編入初日から自分のした選択を後悔していた。セレブが通う学校とは知っていたけど、金持ちなんてどこの私立学校にもいるし、一部の人間だけが目立ってセレブ学校というイメージを植え付けているだけかと思っていたけど甘かった。

「来週、五つ星ホテルでディナーパーティーを開く予定なんだけどどうかしら?」
「ごめんなさい。次の休日にはお父様の別荘で過ごすつもりですの」

 生徒会長の金城(きんじょう)さんという女性に校内を案内してもらっている間、周りから聞こえてくる会話は庶民には馴染みのないものばかりで初日から完全に委縮してしまっていた。
 金城さんについて、とても学校内とは思えない噴水が設置された豪華な中庭に差し掛かった時だった。昼休みを中庭で過ごす生徒がざわつき始め、みんなの視線が一点に集中した。

「新谷さんと木崎さんです」

 みんなの視線と金城さんの声に誘導されるように中庭を歩く男女の姿に視線を移した。

「新谷さんはこの学院の理事長のお孫さんで、お父様も数々のブティックを経営なさってる実業家で文句無しの御曹司。木崎さんはその新谷さんの幼馴染で去年のミスコンでミス栄華に選ばれた学院一の美女。お父様はお医者様で……」

 金城さんの言葉が、途中から頭に入ってこなかった。視線の先に歩く人物を見て開いた口が塞がらなかった。
 だって……あの、新谷っていう人……この間、私に絡んできた柄の悪い不良たちを一瞬で黙らせて従わせた頭的存在だった人なんですけど……!
 お礼を言うべき? いや、でも……

「美男美女。絵になる二人ですよねぇ。ここでは有名なカップルなんですよ」

 私なんかが近づけるような存在ではないことは確か。第一は、とにかくかかわらないほうがいい、そう判断した私はそっと中庭に背を向けた。
 しかし、昼休みも残り僅かを残して教室に戻ると……

「あれー? 新谷君今日お休みじゃなかったんだ」

 朝は空席だった席に座る人物を見て驚愕。さっき中庭で彼を見たのは、堂々とした遅刻登校の瞬間だったらしい。目があうと、新谷という人物はおもむろに私の元へとやってきた。

「吉井さん。ようこそ栄華へ。ボクがあとから校内を案内しよう」

 表情は無表情に近い。にこにことした愛想笑いすら見せないクールな印象。
 この時初対面であるはずの彼が私の名前を口にしても何の違和感もなかった。編入自体が珍しいこの学院では、編入生が入ってくると言うだけで事前に噂が広まり名は知られ、クラスメイトだけではなく学院中からの物珍しいものを見るような居心地の悪い視線をこの日は一日痛いほど感じていた。

「いえ、さきほど生徒会長に案内してもらったので……」
「新谷君は理事長のお孫さんなのよ! 彼に案内してもらいのが一番いいわよ!」

 断る私の発言に横槍が入り、クラスメイトがそれに賛同する。
 その新谷君に目を向けると、ようやく口角を少し上げただけの柔らかな笑みを見せた。
 なぜかぞくりと背筋が凍りついた。
 こうして、校内を案内するという口実の呼び出しが決まったのだった。

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