相容れない二人の恋の行方は
 気を取り直してランチを楽しもうとしたけど、周りの視線が気になってなかなか箸が進まなかった。 視線の集まる先は新谷だ。ポツポツとあちこちに小さな人だかりまででき始めている。半年前まで大学(ここ)に通っていた新谷を在学生が知っていたところで不思議なことじゃない。
 そうか、新谷はいつもこんな居心地の悪い中で生活していたんだ。高校生当時は、人気者の新谷にとってはさぞ気持ちがいいものなのだろうなと皮肉めいたことを思ってじっと耐えていたけど、よく考えてみれば気持ちがいいはずがない。

「どうした真由子。食べないの?」
「いえ……えっと」
「周りが気になる? そんなの気にしてたら、ここじゃなにも出来ない」
「分かってますけど……平気なんですか?」
「ボク? ボクはもうこんなの慣れてるよ」

 箸を進めることが出来ないままでいると「もしかして可哀そうだと思ってる?」の新谷の言葉に目を泳がせた。

「それは間違ってる。ボクも悪いからね」
「……え?」
「周りに壁を作られて、でもそれを歩み寄って破ろうとする努力をしなかった。優等生しながらボクは他の奴らとは違うんだって心の中では威張ってたんだよ。実際、自分の思いのままに出来たし。真由子が逃げたって学院内ならどこでも捕まえ……」
「でもだったら、どうして素性を隠して外にお友達を……?」
「それは……。普通に普通の遊びがしてみたかったし実際楽しくて……言う必要もないだろ? だいたいあぁいうグループの中では家柄とか、そんなの関係ないし気にする奴なんて……」
「でも言わなかった。……寂しいですよ。大好きな友達に、自分のこと隠して接しなきゃいけないないなんて」

 言わなかったのは、やっぱり新谷自身が、子供の頃から学院(ここ)で生活して感じてきた差別みたいなものがトラウマになっているからだと思う。

「言わなかったのは、家族に迷惑をかけるといけないから……って。真由子には見抜かれているみたいだ」
「……はっ! ご、ごめんなさい! 私……い、言いすぎました!」

 慌てて謝ったけど、新谷に怒っている様子はなく、じっと視線を落としたまま口角を上げた。

「今思うと本当に虚しかったなって思うよ。ずっと、自分を偽って生きてきて。別にあいつなら、ほんとのこと話しても自分のことを話しても変わらず接してくれたと思うけど。でもあの時は危ない人が家に近づいて来たりしかねなかったから。家族に迷惑をかけたくないから言わなかったってのは本当だよ。どっちにしろ、別れがくることには変わりなかった。本当の友達にはなれなかったんだよ」

 新谷の本音にシュンとした気持ちもつかの間。新谷は私をじっと見据えるとにっこりといたずらっ子のような目つきで微笑んだ。

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