相容れない二人の恋の行方は
「実は、ちょっと後悔してる。千智にたいする嫉妬心も少し。いやだいぶ。だからさ、二度、同じ思いをするのは嫌なんだよね」
「はい? 二度……?」
「あの頃はどうして気づかなかったんだろう。真由子がこんなに可愛かっただなんて」
「え、え……?」
「今度は、千智のものだろうがなんだろうと遠慮しない。手に入れる」

 じっと強い視線で正面から見据えられて背筋が凍りついた。

「わっ、私と彼は断じてそんな……弘毅さんが思っているような関係ではありませんよ!?」
「今は、ね。でも、よく考えてみればなんでもない女を傍に置いておくなんてこと普通はしない。昔の千智の行動はよく分かんないけど、今は、見違えるほど可愛くなった真由子を前に下心がないわけない」
「ありえません! そんなの絶対にありえません!」

 いつもなら恋人同士だと勘違いされても否定することすら馬鹿らしいと感じることなのに、私はムキになって反論していた。そんな私を無視して、弘毅さんはマイペースに部屋の中を見渡している。

「だいぶ片付いて殺風景な部屋だけど、大きな家具はどうすんの?」
「後日、実家に送る予定ですけど……」

 突然のワケの分からない質問に、チェストやテーブルなどの家具、そして弘毅さんの視線の先のベッドが目に入る。その瞬間肩を抱かれていた。
 ……え? 今一体何が起きて……?

「知ってる? 唇のホクロって好色の相だってどっかで聞いたことがある。セックス好きって。真由子、そんなまっさらで清らかなナリしてるけど、ベッドの上ではすごかったりして」
「……やっ……!!」

 自分に唇に指が触れて咄嗟に身をかばうとそのまま倒れこむように床に押し倒された格好になる。頭の中はパニックで、全身の力を振り絞って抵抗をすると、私は無我夢中になって無意識に叫んでいた。

「いや……いやだっ! 助けて! 助けて……新谷!!」

 目をぎゅっと閉じて声を上げたと同時に、私を拘束する腕の力が緩むのを感じてそっと目を開けた。

「新谷って……? もしかして、千智のこと……?」

 眉をひそめる弘毅さんの顔を見ながら、私は思わず自分の口を両手で押さえた。
 私、今なんて言った……? 誰を呼んで……
 一瞬だった。弘毅さんの力が緩んだ一瞬のすきをついて私は彼を押しのけ起き上がると、そのまま視界に入ったバッグを持って靴を履きその場を立ち去った。

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