相容れない二人の恋の行方は

21 言葉の真意は

 マンションの扉を開けると勢いよく玄関へ入った。
 心臓が痛いほどにどきどきと脈打って、震える足が立っているのがやっとで、すぐにすとんとその場に落ちてしまった。
 乱れる呼吸が苦しい。無我夢中になって走って逃げてきたから、ここまでの記憶がない。電車……乗ってきたんだよね……?

「真由子? 今帰ったのか」

 騒がしい物音に気付いた新谷が部屋から出てくる。少しずつ近づいてくる新谷の気配を感じながらも、動けず顔も上げずにいまだ落ち着かない呼吸に肩を上下していると、私の目の前に立った新谷が膝をついて私の顔が見える位置に視線を合わせた。恐る恐る目を合わせると、新谷は薄く開いた口をきゅっと閉じ少しずつ表情を神妙なものへと変えた。

「どうした?」
「……どうしたって」

 いつもより少し低めのトーンで問いかけられ思わず口から出そうになった言葉を両手で口を押さえ飲み込んだ。
 どうして助けに来てくれなかったの?
 今、口走りそうになった言葉。なんでこんなことを……? 
 混乱して目をぎゅっと閉じて俯く。とにかく今すぐに一人になりたい。
 静まり返るこの場に私の未だおさまらない荒い息遣いの音が響く。

「真由子今、どこに行ってた」
「それは……自宅に、置いた荷物を取りに……」
「自宅? ……弘毅か。あいつに何かされたんだ」

 何も答えないでいると新谷は突然立ち上がった。見上げると、一気に殺気立った顔つきで拳を握りしめた。

「あいつ……ぶん殴ってや……」
「ちょ、ちょちょっと待ってください!!」

 咄嗟に、勢いよく飛び出して行こうとする新谷の腕にしがみついて彼を止めていた。

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