クール上司と偽装レンアイ!?
「横浜への異動の事も、まどかの事もこれで全部」

葵は私の頬に手を伸ばしながら言う。

いつの間にか私は泣いてしまっていて、次から次へと伝う涙を葵は拭ってくれた。

「どうして彩が泣くんだよ」

「だって……その時の葵の気持ちを思うと……」

最後までいえない私に、葵は表情を柔らかくして言った。

「彩には分かるんだな」

「え……」

「たかが失恋かもしれないけど、その時人は立ち直れない程の傷を負う事も有る。信じていた人間に裏切られるってそういう事だ。彩にはそれが分かるんだろ?」

「……うん」

「大塚さんから聞いた。彩も昔辛い目に遭ったんだよな」

「真希ちゃんに?」

「会社帰りに大塚さんに呼び止められて言われた。彩を傷つけないでくれって」

「そんな事を……」

「彩」

呟く私を葵は真っ直ぐ見据えて来た。

「彩の他人にも自分にも厳しく出来ないところや、時々見せる劣等感の強さや自己評価の低さ。全て原因が有ったんだな。聞いた時驚いた。いつも周りに気を遣って、端から見れば楽しそうに過ごしている彩にそんな傷が有るとは思ってなかった」
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