たったひとりの君にだけ

正面から聞こえる特大の溜息は失礼以外の何物でもないけれど。
周囲の奇怪な視線は解除されたから、ここは大人しく我慢しておこうと思う。


「でも、ミツオはかろうじて連絡先の交換には成功したわけだ?」


恐らく諦めたのだろう。
これ以上聞いても本当に何もないのだと。
あぁ、つまんない、顔にはわかりやすくそう描かれている。

ついでに、もはや“ミツオ”は定着してしまった。

憐れな男だ。


「そりゃそうでしょ。万が一残業か何かで待ち合わせ時間に遅れることになったらどうするの」

「私はクリスマスデートがあるのに残業なんてしないけどね」

「私は自分の身が可愛いから会社に忠実に動くけどね」

「会社の犬になってどうすんのよ、人生お先真っ暗だわ」


さすが、クリスマスイヴに有休を被せて4連休にした女。

というか、この師走の終わり掛けに有休を取得するその神経の図太さに感服するしかない。
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