たったひとりの君にだけ

「でも、トータルすれば芽久美が凡人に一歩近付いたから、結果オーライってとこかな」


濁声の中年男性店員に、生とアップルジュースを注文したところで。
頬杖をつきながら、運ばれて来たオム焼きそばに適当にメスを入れた親友を思わず睨んでしまう気持ちはきっと誰もがわかってくれるはずだ。


「……瑠奈は一体私をなんだと思ってるの」

「世間に背いて生きてる親友」


数十分前にプレゼントしたクリスマスコフレを返してほしいと本気で思った。
在庫が1個しかなくて泣く泣く瑠奈に譲ったというのに。(代わりに私はランコムのクリスマスコフレを購入しました)

図太いというよりただの無神経だと思う。


「でもさぁ、津軽弁で告白とはミツオもやるねぇ」

「完全に勢いだったけどね。それ以外全然わかんなかったし」

「そりゃわかんないよね」

「第2外国語、フランス語にしといて正解だったわ。ほんっとフランス語と似てるの。生で聞いてびっくりした」

「私、東北の男とは付き合ったことないなぁ」


それ以外はあるんだと、相変わらずの手広さを披露する瑠奈に、相変わらずの溜息を吐きつつ、大好物のたこわさをひとつまみ口に入れた。

メニューにあれば必ず頼む、私の居酒屋のお供。
自宅でも稀に作るけれど、この味はなかなか再現出来ない。
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