たったひとりの君にだけ

そして、くだらない会話をそこそこ繰り返していると、右手に駅が見えて来た。

この近辺、この時間帯は人通りが少ないのだろうか。
街灯の明かりの下を今も尚、並んで歩く。

20分程電車に揺られて、8分歩けばマンションへと帰り着く。

その後は速攻でお風呂に入って、缶ビール片手に昨日借りて来たDVDを見れば、最高の休日になるってわけだ。


そんな妄想を膨らませながら柄にもなくルンルン気分で歩いていると、向こう側から歩いて来る人影が見えた。

若干、道路寄りに方向を変えようと、無意識に高階君に体を寄せるとコートが触れた。

けれど、思いの外、近付いて来る相手が早歩きだったようで、無難にすれ違う予定がぶつかりそうになった。


「……あっ、すみません」


そして、そう、謝った直後に。
聞き覚えのある声が耳に届いた。



「芽久美?」



どうして、神様はそこで振り返るなと言ってくれなかったのだろう。


歩行者は基本右側を歩くという一般的なルールを破って向かって来る相手に、私はわざわざ道を譲ろうとしただけなのに。


どうして、最高の休日のままで終わらせてくれないのだろう。


サンタクロースにも嫌われて、神様にも見放される。

私の人生、終わってる。
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