たったひとりの君にだけ
「芽久美だろ?」
振り返って、立ち止まってしまった以上、それは完全なる肯定だ。
今更違いますと言って、しらを切って逃げるわけにもいかない。
第一、既に顔を見られてる。
バッチリ目が合ってしまっている。
それに、私は今、残念ながら一人ではないのだ。
イコール、心の中で、やっちまったと呟くしかない。
「……樹」
「やっぱり。どうしてここに?この近所に住んでるのか?これからどっか行くのか?」
矢継ぎ早の質問に、あからさまに鬱陶しい顔で私は答える。
「……違うけど。……アンタはなんでここにいるの」
「俺?俺は1年振りに友人に会いに。これからパーティなんだよ、俺の帰国パーティ。あ、お前も来る?」
答えがわかり切っている質問をして、一体何が楽しいのか。
どうして私がそんなパーティに参加しなければいけないのだろう。
行かない。
絶対に行きたくない。
完全なるアウェーだ、私はそこまでメンタルは強くない。
それなのに、無意味に嫌らしく笑みを浮かべる。
それはもう、5日前と少しも変わらないレベルで。
私はアホかと口にした。