たったひとりの君にだけ

「芽久美だろ?」


振り返って、立ち止まってしまった以上、それは完全なる肯定だ。
今更違いますと言って、しらを切って逃げるわけにもいかない。

第一、既に顔を見られてる。
バッチリ目が合ってしまっている。

それに、私は今、残念ながら一人ではないのだ。

イコール、心の中で、やっちまったと呟くしかない。


「……樹」

「やっぱり。どうしてここに?この近所に住んでるのか?これからどっか行くのか?」


矢継ぎ早の質問に、あからさまに鬱陶しい顔で私は答える。


「……違うけど。……アンタはなんでここにいるの」

「俺?俺は1年振りに友人に会いに。これからパーティなんだよ、俺の帰国パーティ。あ、お前も来る?」


答えがわかり切っている質問をして、一体何が楽しいのか。
どうして私がそんなパーティに参加しなければいけないのだろう。

行かない。
絶対に行きたくない。
完全なるアウェーだ、私はそこまでメンタルは強くない。

それなのに、無意味に嫌らしく笑みを浮かべる。
それはもう、5日前と少しも変わらないレベルで。

私はアホかと口にした。
< 122 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop