たったひとりの君にだけ
けれど、私の願いは虚しくも散る。
それはもう、悲しいくらいに呆気なく。
見放されました。
確実に見放されました!
口を開かないどころか、体まで動かす。
奴は一歩、高階君に近付いた。
「初めまして、ですよね。神村樹です」
そして、右手を差し出す。
「……あ、初めまして。高階充です」
実にスマートな対応だ。
これがフランス栄転を成し遂げた、商社マンの実力というやつか。
(と言っても、社会人としてごくごく普通ではあるけれど)
目の前では、よろしく、と言って2人の男が握手を交わしている。
妙な光景だ。
むしろ見たくない。
「若いですね。何歳ですか?」
「25です。神村さんは?」
「俺はもうすぐ31かな」
年下と判明すると、言葉を崩し始める。
「31歳ですか、見えませんね」
「だろ?よく言われるんだよね」
「秘訣とかあるんですか」
「まぁ、いいもの食べて、よく働くことかな。あとは、マンダムの製品を使うこととか」
「マンダムいいですよね。俺も愛用してます、ワックスとか。助かってます」
「俺はジャムが好きかな。マンダムの商品はもう手放せないな」
どうでもいい会話をしてる場合か!
(そりゃ、マンダムの製品は素晴らしいけども!)