たったひとりの君にだけ
それ以上言葉を交わさないでくれと思いながら、彼らはようやく手を離す。
ずっと繋いでたなんて気持ち悪いんですけど。
「……えっと、高階君、だったよね?」
一人ドン引きする私をよそに。
むしろ存在を忘れ去られているような。
だったら、こっそり立ち去っても気付かれないような気がする。
けれど、今更名前を確かめたかと思えば、はいと頷いた彼に今度はこう尋ねていた。
「ひとつ聞いていいかな?」
そして、若干の間を空けながらも。
「え、はい、なんでしょう?」
高階君はすんなりと許可を出した。
身構えたのは私の方。
心臓が妙な音を立てた。
そして、樹はニコリと笑った後に、意味不明なことを口にした。
「もしかして、君は芽久美のルームシェアのお相手?」
それはいつになく柔らかな声で、本当にその口から出たものかと疑ってしまうほどで。
見事なアホ面を見せる高階君をよそに、今度は何を言い出すんだと口をあんぐりさせるしかなかった。
だけど、直後に思い出す。
そっか、そういえば私。
樹にはルームシェアしてるって言ってたんだっけ。