たったひとりの君にだけ

「え?へ?えっ、ルームシェア、ですか?」

「あ、違う?じゃあ同僚か何かかな?」


しどろもどろな高階君に、樹は余裕の笑みで切り返す。
一方で、私はしっかりと感じ取る。

言葉に節々に小さな棘があることに。


「もしくは親戚とか?」


明らかにふざけた質問だ。
答えを確信しているくせに、聞いて来るあたり心底憎たらしくて。

突然のくだらない質問に戸惑いを隠せない高階君を見事に置いてけぼりで。
ついでに私の存在も完全無視で、樹は一人、言葉を休めず無意味な笑みを浮かべたままだ。


「ほら、芽久美、今彼氏いないって言ってたからさ。彼氏ではないだろ?」


どうでもいい話を、いつまで続ければ気が済むのだろう。

さっさと友人の待つパーティ会場に行けばいいのに。


「……ちょっと樹、うるさい、黙って」


一向に答える気配のない高階君に成り代わって、私はきつく睨んで言い返した。

これ以上、お願いだから。
ホントのホントに余計なことを言わないでほしい。

どうしたらわかってくれるの、この身勝手男は。

それに、実際には私は、いるもいないもハッキリと答えていない。

決め付ける強引さに嫌気が差す。
と言っても、読まれたのは事実だから、致し方ないのも事実だ。(それが悔しい)


「なんでお前が憤慨してんだよ」

「してないよ。気のせいでしょ」


だけど、高階君も高階君だ。
バカ正直に黙るなんて、純粋にもほどがある。

ここは一発、『彼氏ですよ』と盛大な嘘でも吐いてくれたら即座に逃げられるっていうのに。

(完全なる責任転嫁だけど)
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