たったひとりの君にだけ
そして、彼の口から出た言葉には、明らかに敵意が滲んでいた。
これほどの低い声はいつ以来だ?
「好きかどうかなんて、神村さんに言う必要、ありますか?」
それでも、繰り返された台詞に、樹はははっと笑って『言うねぇ』と口にする。
「どこにもない、ですよね?」
「ないね。ないけど、それが充分過ぎる答えだって気付いてる?」
これが年の差というやつなのか。
嫌らしく口角を上げる神村樹に、高階充は確かに怯んだ。
だけど、一番情けないのは私自身だ。
仮に冗談でも、『ちょっと!もっとしっかりしてよ!』なんて思い切り背中を叩く資格はなくて。
何度だって言う。
私はただ一緒にラーメンを食べに行っただけの、隣の隣の隣の隣のいち住人にすぎないのだ。