たったひとりの君にだけ

そして、彼の口から出た言葉には、明らかに敵意が滲んでいた。

これほどの低い声はいつ以来だ?



「好きかどうかなんて、神村さんに言う必要、ありますか?」



それでも、繰り返された台詞に、樹はははっと笑って『言うねぇ』と口にする。



「どこにもない、ですよね?」

「ないね。ないけど、それが充分過ぎる答えだって気付いてる?」



これが年の差というやつなのか。

嫌らしく口角を上げる神村樹に、高階充は確かに怯んだ。


だけど、一番情けないのは私自身だ。


仮に冗談でも、『ちょっと!もっとしっかりしてよ!』なんて思い切り背中を叩く資格はなくて。

何度だって言う。


私はただ一緒にラーメンを食べに行っただけの、隣の隣の隣の隣のいち住人にすぎないのだ。
< 128 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop