たったひとりの君にだけ
それでも、どうこの場を諫めればいいのかわからず黙ってしまったのは、予想外に彼が樹の挑発に乗ったからだ。
絶対にそういうタイプじゃないと思っていた私にとって、一生の不覚としか言えない。
だからこそ、どうすべきか頭を悩ませる。
ここはいっそのこと、この2人の男を置いて一人逃げようか。
けれど、そんな非情な解決策が頭を過ぎった直後に、樹は一息吐いて、一際落ち着いた声で切り出した。
「でもさ、ひとつ忠告」
そして、不敵に笑って、こう言った。
「芽久美はさ、クリスマス前にはなにがなんでも別れんだから、付き合ったって先はねえぞ」
しかも、ほんの僅かの沈黙の後で。
わざとらしく何かに気付いたような顔をして。
「ま、今から付き合っても10ヶ月は楽しめるか」
余計なことを呟く。
この男を、心底憎いと思った。