たったひとりの君にだけ

と、この際人目も憚らず叫んでしまおうとした。


けれど、運よく助かったというべきか。

今にもキレそうな私を差し置いて、冷静な受け答えをする奴がいた。




「……もしかして、神村さんは芽久美さんと別れた経験をお持ちってことですか?」




思わず彼のダウンの裾を掴む。


「ちょ、高階君、もういいよ、帰ろうよ、帰ろう」


何を言い出すんだと思った。

過去の恋愛を掘り返されるのは苦手だ。
現在の恋愛を根掘り葉掘り聞かれることも得意じゃないのに。

自分からは話さない。

元彼とラーメン友達の言い合いだなんて見たくもない。


「ですよね?」

「そうだけど、それが?」


だけど、樹も一歩も引かない。

よっぽどのことじゃない限り、神村樹が取り乱すことはない。

不利だ。

こっちだって、出来ることなら二度と見たくない。
< 131 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop