たったひとりの君にだけ
と、この際人目も憚らず叫んでしまおうとした。
けれど、運よく助かったというべきか。
今にもキレそうな私を差し置いて、冷静な受け答えをする奴がいた。
「……もしかして、神村さんは芽久美さんと別れた経験をお持ちってことですか?」
思わず彼のダウンの裾を掴む。
「ちょ、高階君、もういいよ、帰ろうよ、帰ろう」
何を言い出すんだと思った。
過去の恋愛を掘り返されるのは苦手だ。
現在の恋愛を根掘り葉掘り聞かれることも得意じゃないのに。
自分からは話さない。
元彼とラーメン友達の言い合いだなんて見たくもない。
「ですよね?」
「そうだけど、それが?」
だけど、樹も一歩も引かない。
よっぽどのことじゃない限り、神村樹が取り乱すことはない。
不利だ。
こっちだって、出来ることなら二度と見たくない。