たったひとりの君にだけ
けれど、ふうっと息を吐き、心を落ち着かせたようにも見えた高階君が次に発した言葉で、その鉄壁フェイスは見事に崩れ去ることとなる。
「……神村さん」
「ん」
「クリスマスに別れるだなんだって、俺の知ったことじゃないけど。……要は、神村さんは、それを覆せなかったってことですか?」
まるで、何も知らない純粋無垢な子供が、大好きな母親に『赤ちゃんは何処から来るの?』と尋ねるような声色だった。
だからこそ、怖いと思った。
私は気付いた。
そこには確実に、お返しとばかりの言葉の棘があったこと。
あの樹が即座に言い返せないくらいの、鋭く尖ったナイフのような棘。