たったひとりの君にだけ
「その程度だった、ってことですよね?」
隣にいるのは、本当に703号室の住人なのか。
我が目を疑ってしまうほど、私は彼の言葉を遮ることが出来ずにいた。
頭の回転が速いと褒めるべきか。
それとも、彼に対しても、余計なことを口にするなと叱るべきか。
「負け惜しみ、言わないでもらえますか?」
悩む間も、彼の顔は伺えない。
けれど、その声には既に、力強さ以上のものはないと気付いてしまったから。
その剣幕に圧されるままに、私はやっぱり、上手く彼を止めることが出来なかった。
すると、そんな私をよそに、樹は微かに笑い声を漏らした。
「……相手にとって不足なしってとこか」
ぼそっと呟いた台詞は、私の耳にもしっかりと聞こえたのだ。
彼に聞こえなかったはずはない。
「高階君」
「なんですか」
「君、面白いね」
痛いところを突かれた、そんな顔をしていた樹はあっという間に鉄壁フェイスを取り戻して。
普段通りの余裕の笑みを見せる。
わからない。
いくら得意とはいえ、どうしてそんな顔が出来るのか。
理解しかねるままに奴は続ける。