たったひとりの君にだけ

勢いのままに連れて行かれる。

若干、手首に痛みを感じながら、いい加減、足元が危ないと思ったところで声を掛ける。


「……っ、ちょ、高階君!ストップ!」


掴まれた右手を思い切り引くと、ようやく気付いてくれたらしく。
ゆっくりとスピードを緩め、徐々に立ち止まった。

目的の駅は見事に通り過ぎていて、遥か彼方、後方だ。

そして、道端で電柱を陰に、ゆっくりと振り返った彼と向き合った。

何故だろう、微かな威圧感を感じてしまうのは。

色んな感情が渦巻いているように思えて、安易に読み取ることが出来ない。

だからこそ。


「……何よ」


何も口を開かない目の前の男に、私は先手を打つしかないと瞬時に思った。

でも、本音では。

ただ、この空気感が嫌だった。

押し潰されるような気がしただけだ。
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