たったひとりの君にだけ
「……まぁ、樹にはルームシェアって言ってたみたいけど、確か他には、実家暮らしとか大家族で無理だとか、色々ね」
思いつくままに理由を作った。
ちゃんとそれを徹底した。
なにがなんでも死守した。
「……どうして?」
「家まで来られたくなかったの」
「どうして?」
「どうせ別れるから」
どうして、ばかりに飽き飽きする。
だったら、手っ取り早く言っちゃえばいいだけの話だけれど。
それはただ単純に、はじめから白旗を揚げるのが癪だっただけ。
だけどもう、残念ながら嘘も偽りもない。
「……さっき、あの人も言ってたでしょ。私、クリスマス一ヶ月前には別れるの」
曝け出すのは好きじゃない。
瑠奈と飲んでも、自分の話は後回し。
と言っても、彼女が弾丸トークなだけ。
仕事の愚痴や休日の過ごし方はいくらでも言えど、恋愛の話なんていつも敏腕刑事の尋問に遭って、必要最低限を述べるに留まる。
だからこれは、“不可抗力”なんだと、強く自分に言い聞かせる。
「だから必要最低限しか教えたくなかった。細かい身の上まで教えるつもりはなかったのよ」
住所も、職業も、ときには学歴だって。
私は隠す。
疚しいことはなくても。
怪しい女ではなくても。
樹の場合、出会った方法が方法だけに、職業もオフィスも隠すことが出来なかったけれど。