たったひとりの君にだけ
例え小声でも、この優秀な聴覚がしっかりと捉えて離さなかった。
聞こえない振りなんて出来るはずもなかった。(する意味もないけれど)
「……ちょっと待って、ホントに待って。なんで?え、まさか本当にいたの?あの場にいたの?」
強めに食って掛かる。
力んだ語尾と共に、反射的に彼のダウンジャケットの裾を掴んでいた。
「なんで私が樹とカフェで話してたの知ってるの!?」
まさかでしょ。
ありえないでしょ。
ベレー帽を被って不釣合いな本で顔を隠して、店の一番隅に座ってました、なんて、冗談でも言わないでよね!
続けざまの尋問で、持ち前の冷静さなんて何処か遠くへ吹き飛んで行ってしまったのは明らかだった。
25歳の男に27歳目前の女が振り回されている。
未だ嘗て、年下の男にこんな扱いをされたことなんてただの一度もなかったのに。
やっぱり、一生の不覚としか思えない!