たったひとりの君にだけ
目の前では、瑠奈がわざとらしく鬱陶しい溜息を吐いた。
「ねぇ」
「何よ」
「やっぱりミツオってバカなんじゃないの?」
「そうなんじゃないの」
「週5でラーメンとか、絶対に自炊してないパターンでしょ」
「知らないよ」
「ご飯作ってあげれば?料理得意なんだし」
「なんで私が」
情けも無用で即答する。
どうして私が奴の為に包丁を握らなければいけないのか。
男の為に料理をしたことなんて、未だ嘗て一度もない。
それはきっと、これから先もそうだと思う。
「ミツオ、仕事何やってんだっけ?」
「システムエンジニア」
「バカではないな」
「……あんた今、理系は頭いいってだけで片付けたでしょ」
「だって実際そうでしょ。私、理系がてんでダメで泣く泣く文系にしたんだから」
「文系が得意で自ら文系にした人間もいますから」
目の前にいるでしょ、という声は心の中に留めておいた。
何故なら、理系が不得意なことは少なからず事実であるからだ。
「ミツオって年下?」
「うん。年下。25歳」
若いな、と呟くのは、瑠奈が本日付で2個上になったからだろうか。(かろうじて私はまだ1個上である)
だからと言って、舌打ちなんてしなくてもいいのに。
どう足掻いたって、時の流れには逆らえない。