たったひとりの君にだけ

そうこうしているうちに、またもや同じ中年店員が現れて、注文通り生とアップルジュースを置いていった。

彼はこの座敷一帯を担当しているのだろうか。
相変わらず愛想はない。
けれど、配膳スピードとしては合格圏内である。

ついでに瑠奈がオーダーしたチーズつくねも運ばれて来て、彼女は早速それに箸を伸ばした。


「っていうか、なんでノンアルなの?」


大きめサイズだった為に箸で2等分にカットして、質問とは裏腹に瑠奈はそれをゴクリと美味しそうに飲み込んだ。

今更それを聞くんだと半ば呆れつつも、本日は普段よりも5割増しで寛大な私は、無類のチーズ好きにその答えを述べようとしたところで先手を打たれる。


「年末だよ?今日で今年の仕事終わりだよ?ありえないんだけど」

「わかってるよ。わかってるけどさ、なんか調子悪くてね」

「え、何よ、もしかして風邪?」

「わかんない。でも、昨日、髪乾かさないままベッドで雑誌読んでたらそのまま寝ちゃったから、もしかしたらそうかも」

「バカだなぁ。いくらボブだからってちゃんと乾かさないと風邪引くし。第一、髪痛むし」

「普段はちゃんと乾かしてから寝てるから。昨日はちょっと疲れてたの」

「年末迎えるのに生気を失ってどうするのよ、これからよ、これから!」


そうか、この人は今週は3日しか働いてないからこんなに元気なんだ、と無理矢理納得しておいた。
< 16 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop