たったひとりの君にだけ
「……ねぇ」
「はい?」
「高階君の優しいのハードル、低いよ、低過ぎる」
一際落ち着いた声で、重みを持たせて事実を告げる。
ずっと思ってた。
どうしてそんな冗談を言う必要があるのだろうと。
「そうですか?」
「そうだってば」
「でも、俺も思ったことを正直に口にしてるだけですよ」
なんでここで対抗心を燃やしてくるわけ?
「……間違ってる。間違ってるから」
いろいろと間違ってることを、どう頑張ったらわかってくれる?
これ以上隠すことがないくらい、身包みを剥がされた私にはもうそんな力は残されていないのに。
「……ありえないよ。ありえないんだって。さっき言ったでしょ。私、クリスマス1ヶ月前には別れるって。なにがなんでも絶対に。相手の気持ちなんて無視で、捨てるんだよ。それはもう見事なほどにアッサリとね。そんな女を優しいなんて思うわけ?」
イエスなんてありえない。
一生似合わないと確信している。
嬉しくもなんともない。
かわりに自負しているのは、自分が身勝手だってことくらいだから。
それなのに。
「でも、芽久美さんは優しいんです」
この期に及んでその口を閉じない。
一向に折れる気配のない彼に、見かねた私は眉をしかめて呆れた溜息を吐くしかなかった。
喜ぶと思ったら大間違いだってことを。
この際、冷たいその頬でも思い切り殴ってやればわかってくれるのか。
武道をやってなくたって、平手打ちくらいは誰にだって出来る。