たったひとりの君にだけ
綺麗に言えば、彼にとっては思い出ってやつなのかもしれない。
そう思うのは、あまりにも彼が柔らかな表情で語るからであって。
思い切り顔を背けてしまう。
何故なら、私にとってはやっぱり本当にどうでもいいことで。
自分の話をされるのは得意じゃないから、結局は耳が痛いだけの話なのだ。
それでも、彼は私の名前を静かに呼んだ後に、冷え切った手を自分の吐息で温め、更に言う。
「……そもそも、芽久美さんは、初めから俺のこと、無視っていう無視はしなかったし。……だから、無意識に優しいんです」
未だに一歩も引かない彼は、具体例を持ち出した所為で自信満々なのだろうか。