たったひとりの君にだけ

今度は幸運にも誰も近くを通らずに、不審な目を向けられることはなかった。

だけど今、この状況でそんなことはとりわけ重要でもなんでもなくて、むしろこの際どうだっていい。
今日の私は既に、取り返しのつかないレベルで数々の失態に狂わされているのだから。

そして、驚きのあまり外壁から思い切り背中を離して、またもや何からどう解決すればいいかわからずアホ面満開の私に、高階容疑者は説明を開始する。


「お盆は帰れなくて、久々の再会だったんですよ。で、芽久美さん、親切にマンションのエントランスまで送ってくれて、オートロックの解除方法も教えてくれたって。俺、ばあちゃんに教えたんだけど、メモした紙を忘れたらしくて。気付きませんでした?703って番号押すの」

「プライバシーの侵害になるかと思って見ないようにしてたわ!こっちは待ち合わせに遅れるかもしれないから、腕時計確認したり、LINEで報告したりしてたの!」

「そんなに急いでたのに、俺の大事なばあちゃんに救いの手を差し伸べてくれて本当にありがとうございます」


深々と頭を下げられる。
お礼を言われて悪い気分になるなんてそうそうないと思うけど。

今は例外。

そんなことどうだっていい!
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