たったひとりの君にだけ
「で、次の日、俺とばあちゃんが部屋出たら、ちょうど芽久美さんがエレベーターに乗ってて、でも、ばあちゃんがあの人だって言ったときには既に扉閉まっちゃってて。名前知らないから引き止められなかったし、階段使って7階を駆け下りるのも無理だなって思って。勿論、俺とばあちゃんが次のエレベーターで1階に降りたときにはもう芽久美さんの姿はなかったし」
さっきまで無駄にニコニコしていたくせに、今度はすこぶる残念そうな顔をする。
どうしてそんなに感情表現がストレートなのだろう。
とてもじゃないけど真似出来ない。
少なくとも、眉間に皺を寄せてばかりの私には。
「ばあちゃん、俺に会いに来るついでに東京観光したかったらしくて。浅草とか巣鴨とか行きましたよ。俺一人じゃ絶対行かないから、新鮮で楽しかったです。あ、雷門の前で記念撮影しましたよ!」
祖母孝行お疲れ様です、と言ってほしいのだろうか。(言わないけど)
そういえば、時々わからない言葉を喋って、聞き返すとその訂正をする、というのを何度か繰り返した気がする。
今思えば、あれって津軽弁だったってこと?
ということは、つまりは去年の12月23日、マンションの廊下で高階君に次々と浴びせられた津軽弁の前に、私は既に生の津軽弁に触れていたってこと?
しかも血縁者に。