たったひとりの君にだけ
思わずむっと口を尖らせて、バカにしないでよと心の中で抗議していると、高階君は私の正面に立ち、柔らかな表情を向けて来た。
そして、優しい、としか形容出来ない声でこう言った。
「……芽久美さんが、あまりにも素敵だから。あの日から、なかなか声掛けられずにいたけど」
心臓が、微かに音を立てた。
「本当は、見かける度に目で追ってました」
何も言葉を返さない、私を見つめて更に紡ぐ。
「でも、このままじゃ何も変わらない。そう思って、勇気を出して声掛けたんです。クッサイ台詞で結果的には裏目に出ちゃったけど、それでも声掛けてよかったって、今とても満足しています」
いくら街灯の下といっても。
かろうじて表情はわかっても、その色までは確実に捉えることは出来なくて。
もしかしたら。
寒さの所為じゃなくて、その頬が赤くなってるんじゃないかって。
そして、言葉通りの顔を見せる。
包み込むような声色で、外気に晒されて暫く経つ私の体を微かに温める感覚がした。
気のせいだ、そう言い聞かせても。
気付かぬ振りは出来ないと思った。
無理だと思った。
耳に残ってうるさ過ぎる。