たったひとりの君にだけ

全ては私の身勝手の所為で。

そう思って諦めることにした。(勿論、この場は、だけど)


投げやりで、この上なく失礼な態度にも彼は変わらず笑う。

多分もう、どう振る舞ったって、やっぱり彼には何ひとつ効果はない。


つまりは時間の無駄だったってことでしょうね。


「……ったく、案外頑固だよね!」


そう言って、私はとうの昔に通り過ぎた駅へと踵を返す。

後ろから駆けて来る音がする。
そして、そっと隣に並んだ。


「それに、口のうまい樹に喧嘩売るなんて初めて見た。私だって丸め込まれることあったのに」


といっても、初対面で何も知らなかった彼にしてみれば仕方のないことだけど。

しかも、言い淀むことがあっても、結果的に見ればイーブンだった。

譲らない。
尻込みしない。

怖いくらいにストレートで怖かった。



「俺だって滅多に怒らないですよ。でも、芽久美さんを侮辱してる感じがしたし、好きな人を邪険に扱われていい気分する人なんていないですから」



さらっと言ってのけるこの人は、小悪魔か天然記念物か。

あ、絶滅危惧種もありえるな。


「……そりゃどうも」


またもや適当にあしらって、私は一足早く定期をかざして改札を抜けた。
< 169 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop