たったひとりの君にだけ

コツコツとヒールを鳴らしながら、3番線へと歩みを進める。


「芽久美さん」

「……なんでございましょう」

「住んでる場所、教えてないんですね」


どうしてほじくり返すのか。

趣味なのか。
もはや趣味なのか。


「……だから?」


あからさまな表情に苛立つ。

そのニヤニヤ顔、尋常じゃないくらい鬱陶しいんだけど。


「なんなのよ」

「だって嬉しいから」

「なによそれ」

「え、だって、」

「あのねぇ、俺は知ってるんだぞ、みたいな雰囲気出すのやめてよ」

「あ、バレてる」


バレて当然。
透けてるんだって、君は。


「仕方ないじゃない。高階君が知ってるのは不可抗力なんだから」


不可抗力じゃなかったらなんだって言うの。


「不可抗力!!」


念押しでもう一度告げる。
直に来るであろう電車を待ちながら。


「フランス行きませんよね?」

「行かないって!しつこいっ!」


復習なんて迷惑だ。

行くとしたら旅行だってば。
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