たったひとりの君にだけ

そして、1階へと到着したエレベーターから早々と脱出する。

だけど、キョロキョロと周辺を伺ってみても、高階君らしき人物の姿は見当たらない。
もしかしてトイレ?という想像すら脳裏をよぎるなか、私は受付へと歩いた。


だけど、やっぱり私は神様とやらに嫌われているんだと思う。

今週一週間を乗り切った私の耳に、信じられない声が届いたことが確固たる証拠だ。



「え~、21歳?若いね。俺と10も違う」



それは憎たらしいほど耳障りな声だった。


視界には受付の横で、台に肘をつきながら話し掛ける一人の男。

『可愛いね』と言われ、頬を赤らめる受付嬢は既にデレデレのご様子で。
私は睨みを利かせるしかなかった。

そして、ようやく立ち止まった私に気付く。


「お、来た来た」


片手を挙げて、笑みを浮かべる。

なんなの。
どうしてここにいるの。
意味不明も程々にしてほしいんだけど。



「早かったな」


“早かったな”?


その瞬間、私は事態を把握した。
< 183 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop