たったひとりの君にだけ

改めて、受付嬢に向き直る。
ビクッと思い切り体を引いた様子は、完全に蛇に睨まれた蛙状態だ。

だけど、ここは年長者として一応助言しておくべきだと思う。


「……あのね、いとも簡単に買収されてんじゃないわよ。こんなやり方する男なんてろくな男じゃないから。この件は湯川さんに報告しておきます」


『それだけはやめて!』と慌てふためく彼女を後ろ背に、私はその場を立ち去った。

これで、こんな失態は二度を犯さないだろう。

本音を言えば、八つ当たりに見えなくもないけれど。
実際のところ、あの子も被害者なわけだし。

だけど、これも人生経験だ。

最年長受付嬢の超絶美人な湯川さんは頼りになる。

今後の為に、しっかり指導してもらえばいい。


警備員もこんな受付を背に、目を光らせないなんてどうかしてる。

と思いつつ、こちらも偶然にも初めてお目にかかる顔で、見るからに細くて頼りなさそうだ。

運が悪い。

寺脇さんだったら『この男、今度ここに来たら入れないで下さい』って頼めたのに。
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