たったひとりの君にだけ
救いようがない溜息を吐いたところで、鞄の中のiPhoneが着信を知らせた。
画面を見ると、それはこの後待ち合わせしている瑠奈からで、私は脇道に逸れて電話に出た。
『あ、芽久美?お疲れ~。仕事終わった?』
あぁ、この声。
とても落ち着くわ。
『おーい、芽久美?』
「あ、ごめんごめん、あ~、うん、仕事は終わった」
そう。
仕事は、無事に終わったんです。
『は?どういう意味?あ、それよりね、今日、注文してた財布が入荷したって百貨店から電話が来たから、それ取りに来て、で、時間余ったから芽久美の職場近くまで来ちゃったんだよね。ちょうどいいから、久々にあいじま食堂に行こうよ~』
既にルンルン気分の彼女に、今、この状況を伝えたら、どのような反応を示すのだろうか。
見ものと言えば実に見ものだ。