たったひとりの君にだけ

むっとしていると、突然左肩をポンポンと叩かれた。

そして、反射的に首を曲げると、左頬にグサッと何かが刺さった。


「今どき引っ掛かる奴っているんだ」

「な……っ」


声にはならなかった。
横目で覗いた先では、憎たらしく笑う奴と視線が合った。


「いつまで二人で話してんの。寂しいな」


バカなんじゃないの。
その寂しがり屋アピールはなんなの。


「久し振り、瑠奈ちゃん」

「お久し振りです、神村さん。相変わらずお元気そうで」


微塵も思っていないことを口にした直後に、互いに営業スマイルを交わしていた。

瑠奈と樹は、一度だけ会ったことがある。
デート中に遭遇、道端での立ち話程度だったけれど、お互いに顔を覚えるのが得意な所為だと思う。


「相変わらず綺麗だね、瑠奈ちゃん」

「神村さんこそ相変わらずのハイセンスですね」

「そうかな。光栄だなぁ。身に着けるものは妥協しないって決めてるんだ」

「そのポリシーは、その身なりを見ればよーくわかります。是非ともご友人を紹介して頂きたいものです」

「ホントに?多分、瑠奈ちゃんだったら会いたい奴いくらでもいると思うけど」

「お口がお上手なんですね。知ってますけど」


この不毛な会話はどうにかならないものか。

聞いてるこっちが疲れそうだ。
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