たったひとりの君にだけ

「……どうする、芽久美」


だから、まさかの反応に私は目を見開いた。


「……どうするって、何言ってんの。うん、なんて言うわけないでしょ」

「でも奢ってもらえるって」


これだ。
これがダメなんだ。
相変わらず、瑠奈はこれに弱い。

タダより安いものなんてないことは、私だってわかってる。

だけど、そこに伴う精神的苦痛を思えば、私が同行するメリットはない。


「イ・ヤ・だ」


それでも、完全拒否の私の耳に、小悪魔の囁きは止まらない。


「いいじゃん、行こうよ」

「……人事だと思ってる?」

「思ってないから行こうって言ってるの」

「はぁ?」


どういう意味なのと尋ねようとしたときには、既に瑠奈に手首を掴まれていた。


「神村さん、行きましょう。何処にしますか」

「ちょっ、瑠奈ってば、本気ッ!?」

「ありがと、瑠奈ちゃん。じゃあ、俺のお気に入りの店でいい?」

「は!?私帰る、」

「いいです。そこにしましょう」


まるで透明人間扱いだ。
視力がいいって褒めたばかりなのにどういうこと。

あいじま食堂はどこ行った?
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