たったひとりの君にだけ
一人何も喋らずに、もくもくともつ鍋を食す。
ラーメンに及ばずとも私の好物。
瑠奈と二人きりだったら、もっと美味しく堪能出来たはずなのに。
それが心底悔しい。
(だけど明日はきっとお肌がプルプルだ、しっかり食べて帰ってやろう)
「で、芽久美。いい加減フランスに来る決心は固まった?退職願い出した?」
いきなりの話題シフトにもポーカーフェイスを保つ。
そんなふざけた質問に答える義務はありません。
「おい、芽久美、聞いてる?」
だんまりを決め込み、黙秘権を行使する私はひたすらもつ鍋ばかりを突っつく。
察しなさいよ。
「無視されちゃったよ俺。ねぇ、瑠奈ちゃん、芽久美冷たくない?」
「これが芽久美なのっ!って、え。付き合ってる頃は優しかったの?」
「いや、変わらない」
だから私は優しくなんかない。
わかってくれててどうもありがとう。
「ってか、瑠奈ちゃん。聞きたいんだけど、芽久美ってラーメン好きなの?」
「え~、そうだけど、樹君知らなかったの?」
「そうなんだよ。この前初めて知ってさ。いつから好きなの?」
「出会ったときから既に」
「そうなの?俺と付き合ってた頃はそんな話一度もしなかったな~。隠してたなんて酷いと思わない?思うだろ?」
額の血管がピキッと動きつつも、未だポーカーフェイスを保つ私は絶対に偉い。
別に隠していたわけじゃない。
必ずしも全てを曝け出さなければいけないのか。
ただ、連れていってくれた店が全て高級店ばかりだった樹が。
一流商社の有望株であることを私は知っていたから。
“そういう人間なんだ”
そう思って付き合っていただけだ。
忙しい樹は、会う時間も遅ければ次の日だって驚くほどに早かった。