たったひとりの君にだけ
「芽久美は結構秘密主義だから私も困ってるの」
「やっぱりそうか。俺さ、ラーメンのない生活はありえないって言われちゃってさ~。今からラーメンの修行しようかと思ってんの」
バカじゃないの。
アンタじゃ無理だ。
身の程を知れ。
ついでに全国のラーメンに命を懸ける職人に謝れ。
「カップラーメンじゃダメなの?」
「芽久美はそれで納得してくれない気がするんだよな~」
「確かにカップラーメンとお店で食べるラーメンは違うよね。別物だよね」
「だろ?でもさ、そんなに好きなら自分で作ればいいんだよ。エッフェル塔が見えるマンションで」
材料も調理器具も充分なほどに揃えると、自信満々な声が聞こえて来ようとも。
目の前に座る女が、それを素直に喜ぶと思っているならバカじゃないのと本気で思う。
神経、繋がってますか?
「……アンタ、私が家で大人しく誰かの帰りを待って、可愛らしく料理してるような女に向いてると思ってるの?」
ビールジョッキをゆっくりとテーブルに置いて、顔を上げて睨み付ける。
ついに口を開いてしまった。
けれど、効き目なんて少しもないのはわかってた。
「一日中料理しろなんて言ってねぇ。好きなことして待ってればいいだろ。例えば仕事したっていいし」
「知り合いも一人もいない国に、私が目的もないまま行く意味は?」
「目的なら最初から言ってるだろ。俺といること。それに、お前、知り合い云々っていうタイプの人間じゃないだろ」
その即座の切り返しが、的を射ているから腹が立つ。
味方であるはずの瑠奈まで、日本酒を煽りながら頷くから納得いかない。
私の代わりに樹の相手をしてくれるんじゃなかったの。
私は残り少ないビールを一気に体内に流し込んだ。