たったひとりの君にだけ
「……いつまで日本にいるの。早く行けば」
「お前の答え聞かなきゃ行けねえだろ」
「答えなんて最初から言ってるじゃない」
「そうだっけ?あ、ちなみに俺まだこっちにいるから。予想外に仕事ひとつ任されてさ。有能だと大変だよ」
「樹君すご~い」
「どうもどうも」
そう言って、胡瓜の漬物を口に運ぶ樹の顔には果てしなく厭らしい笑みが浮かんでいる。
自信満々なその姿には、しっかりとした実績が裏付けされているから反論したくても出来そうにない。
そうじゃなければ、30歳そこそこでフランス支社を任されるなんてことはありえないのだから。
たまたまデート中に会った樹の上司とやらも、お世辞ではなく本気で樹を褒めていた。
部下に持って俺は幸せだなんて、今思えばあなたはそんなことで幸せ感じるほど家庭生活上手くいってなかったんですか。
それに、『こいつは捕まえといて損はないですよ』なんて、今思えばどうでもいい話だ。
好きでもない男と、異国の地で暮らす趣味はない。