たったひとりの君にだけ
大体こっちだろうな、と予想して歩いた先、私の勘は当たっていた。
若干の薄暗さがお洒落な雰囲気を醸し出している。
酒も美味しい、もつ鍋も最高、玉葱と海老のサラダも絶品。
悔しいけれど、樹の店のチョイスは昔から一流だ。
ポーチを取り出して、メイクを直す。
不要とわかっていても、いつもの癖はなかなか抜けない。
すると、鏡越しに化粧室の扉が開いたことに気付き、そっと視線を向けるとそれは私に助け舟を出そうとした人だった。
「疲れてる?」
「疲れてないと思う?」
リップの蓋をカチンと閉めて、ポーチにしまう。
隣に並んで同じく化粧直しを始める瑠奈は笑っていた。
本音を言うと、話が違うと彼女を責めたい。
だからこそ、嫌々この場に来ることを了承したわけで、本来ならば今頃二人であいじま食堂のカウンター席で、美食と共に女将さんと他愛もない話を楽しんでいたはずだった。
新年一発目の挨拶だって済んでいないのだから。
けれど。
結局は、私が一人でどうにかしなければいけないということなんだろう。
だから、責任転嫁は違うような気がして。
「もう、睨まないでよ」
「睨んでないよ。眠くて瞼が重くなってるだけ」
自然と目つきが悪くなっていたらしい。
苦し紛れの言い訳で凌ぐ。
「これでも頑張って相手してるの」
「充分楽しんでるように見えるけど」
「やっぱり怒ってる。でも、せっかくの金曜の夜だもん。とりあえずは楽しまなきゃダメでしょ。第一、ぜ~んぶ!奢りなんだしっ!」
そりゃ、こんな敷居が高そうな店に二人で来ることはないだろう。
それなりの値段が伴うのは仕方ない。
しかもそれが全額タダなら、羽目を外すのも理解出来ないわけじゃない。