たったひとりの君にだけ
そして、誰かさんを彷彿とさせる、そんなニコニコ顔が目の前にある。
私は先に手を離した。
すると、直後にその笑顔のまま、こう言われた。
「先日はご来店ありがとうございました」
あぁ、やっぱり言われた。
予想通り言われた。
でも、社会人としては大正解だ。
それでも触れないでほしかった。(無理があるけど)
「……いえ、すみませんでした、いろいろ。いい大人なのに」
小声になる。
縮こまる。
今すぐ忘れてほしいのに。
どっか遠くに放り投げてほしいのに。
でも、願い虚しく穿り返される。
「とんでもないです。むしろカッコよかったですよ?」
不思議そうに聞いて来る、その態度が心底不思議だ。
「……あの醜態が?」
「醜態じゃないですよ。妻もカッコいいねって言ってました」
「え、結婚なさってるんですか?」
「はい。結婚2年目です」
もしかして、カウンターの中にいたあの女性だろうか。
ポニーテールが可愛らしい、小柄の女性。
なんていうか、そんなド派手な眼鏡掛けてるから独身だと思ってたよ。