たったひとりの君にだけ

そして、誰かさんを彷彿とさせる、そんなニコニコ顔が目の前にある。
私は先に手を離した。

すると、直後にその笑顔のまま、こう言われた。



「先日はご来店ありがとうございました」



あぁ、やっぱり言われた。
予想通り言われた。
でも、社会人としては大正解だ。

それでも触れないでほしかった。(無理があるけど)


「……いえ、すみませんでした、いろいろ。いい大人なのに」


小声になる。
縮こまる。

今すぐ忘れてほしいのに。
どっか遠くに放り投げてほしいのに。

でも、願い虚しく穿り返される。


「とんでもないです。むしろカッコよかったですよ?」


不思議そうに聞いて来る、その態度が心底不思議だ。


「……あの醜態が?」

「醜態じゃないですよ。妻もカッコいいねって言ってました」

「え、結婚なさってるんですか?」

「はい。結婚2年目です」


もしかして、カウンターの中にいたあの女性だろうか。

ポニーテールが可愛らしい、小柄の女性。

なんていうか、そんなド派手な眼鏡掛けてるから独身だと思ってたよ。
< 236 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop