たったひとりの君にだけ
白い息が宙を舞った。
「……あ」
すると、咄嗟に私は閉まりかけた扉を、紙袋を持っていない左手で押さえていた。
「え?」
彼の声が聞こえても。
驚いたのは確実に私の方。
絶対に、彼は足元にも及ばない。
「……あ、ごめん。あの、」
「いえ、どうしたんですか?」
思いの外冷静な声に、今度は焦る。
けれど、決して気付かれぬように、通常の声色と速度を保つよう心掛けた。
「あ、あの、別にどうでもいいことなんだけど、あの、……おすそ分けのお礼、って言えばいいのかな。……夕飯、食べてく?」
思いがけない一言。
それは勿論、私にとってもそうで。
だけど、恐らくそれは彼も同じことで。
今度はしっかりと、その表面に浮かぶ驚きの表情が見て取れた。