たったひとりの君にだけ

「まあいいや。わざわざありがとう」

「どういたしまして」


この紙袋は返した方がいいのだろうか。

少なからず頭を悩ませていると、高階君は急に無言になり、何故か少しずつ首を動かし始めた。

ついでに、その鼻も。
それはまるで、鋭い嗅覚を持つ犬のように。

ついにおかしくなったのか。

君は一体、人の部屋で何してるの。


「あの~」

「はい?」

「なんか、いい匂いしますね」


不審な行動を問いただす前に、先に彼が口を開いた。


「え?」


聞き返しても、頼んでもいないのにより一層わかりやすく鼻を動かすだけで。


「……チキンライス?」


どんだけ嗅覚鋭いの。


「そうだけど」

「今日の夕飯はオムライスですか?」

「そうだけど」

「いいなぁ」

「高階君はカップラーメンでしょ」

「はい。コンビニで見つけた新作です。ちなみに昼もカップラーメンでした」


体に悪い。
確実に悪い。

どんだけラーメン好きなの。


「ほんっと自炊しないんだね」

「いや~…あの、ほら、今日寒いじゃないですか。だから外出る気失せて、食材を買いに行く元気がなかっただけです」


なんだろう。
確実に嘘に聞こえる。


「うん、寒いもんね、雪降りそうだもんね。困るわ」

「俺は雪国育ちだから慣れてるけど、こっちじゃ珍しいし、みんな歩き方下手ですもんね。俺、何気に自慢だったんです。歩くの上手いだろ~って。ってか、すみません、開けっ放しにして。寒いですよね」

「あ、うん。そうだね。寒い」

「すみません、じゃ、俺帰ります」


そう言うと、彼は一歩下がって扉を閉めようとした。
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