たったひとりの君にだけ
「じゃあ、お言葉に甘えて手伝ってもらおうかな」
若干の不安が残りつつも、仕切り直して中に招き入れる。
彼は脱いだ靴を丁寧に揃えて、お邪魔しますと一礼して私の後に続いた。
突然の訪問。
本来ならば玄関先で帰る予定だった彼を、引き止めたのは紛れもない私。
『散らかってるけど』と冗談でも口にしないのは、本当に私の部屋はシンプルイズベストで、掃除も行き届いているからだ。(要するに、自慢)
それに、結局は、1ヶ月前にも高階君はここに足を踏み入れた。
鍵まで預けて、寝室にも進出して、一人でキッチンにも立っている。
あのお粥は美味しかった。
だから、サラダくらいは任せても大丈夫だと信じたい。
「早速取り掛かろっか。さっきからお腹がうるさいみたいだし」
「あ、気付いてました?この匂い嗅いでると腹も鳴りますって」
「そうかなぁ」
ソファの上におすそ分けの袋を置いて、エプロンを再度身に着ける。
「あ、エプロン要る?ちょっとサイズ小さいかもしれないけど」
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「そ。じゃ、キッチンにどーぞ」
必要な道具を一式並べて、冷蔵庫からレタス、きゅうり、トマトを、引き出しからツナ缶を取り出す。
「実質、包丁を使うのはきゅうりとトマトだけだね。一任するから頑張って」
「了解しました!」
「ちゃんと洗ってね」
「わかってますって」
「洗剤使わないでね」
「芽久美さん!」
くだらないやり取りをしながら、私は卵を6個、ボウルに割った。