たったひとりの君にだけ
お皿に移して、隣のポトフの鍋を温め始める。
すると、隣から驚きの声がした。
「うわ~!すっごい美味そう!」
大袈裟なんじゃないかと思う。
「これで完成じゃないよ。ホワイトソースかけるから」
「マジっすか!芽久美さん凄いですね!」
「凄くないよ。上からかけるだけなんだし。バカでも出来る」
「手が込んでるな~!楽しみです」
「どうも。ってか、それより……」
2個目の特大オムライスに取り掛かる前に、再度、彼の手元を確認する。
「まだ出来てないの?」
お皿の上には未だレタスのみ。
まな板の上にはいびつなきゅうり達。
そして、手付かずのトマトがひとつ。
全く作業が進んでいない。
すると、顔を上げた先、唇を尖らせている彼が視界に映った。
「俺、喋りながら包丁使うとか無理ですもん」
あぁ、そっか。
そうだよね。
指切っちゃうもんね。
包丁はご無沙汰なんだもんね。
気が付かなくてごめんね。