たったひとりの君にだけ
悲しき事実は心の中に留めて置くことにして、私は2個目のオムライスを皿の上に乗せる。
そして、フライパンをシンクの中に置き、空いたコンロでホワイトソースの鍋を温め始めた。
「……よし!きゅうり完成!」
まだやってたのかよ。
「次はトマト!」
「ハイハイ、頑張ってね~」
ホワイトソースをかき混ぜながらエールを送る。
そして、無駄に話し掛けるのもやっぱり作業を滞らせてしまうと実証済みだけど、どうしても聞きたいことを思い出してしまった。
「あのさ」
「はい、なんですか」
「メガネ君は、どうしてあんな眼鏡なの?」
「へ」
案の定、手が止まる。
中途半端に切られたトマトが切ない。
「だから、なんであんなド派手な眼鏡?」
「あ~、それは……」
「やっぱり理由あるんだ?」
「え、あ、はい」
「で?」
問い詰める。
何故か言い淀んでいるように見えたけれど、容赦なく突っ込んでみる。
だけど、彼は戸惑いの表情から一変、キリッとした。
「高階君?」
「言えません」
予想外の答えに驚くのは必然だった。
しかもその声は訳もわからず力強いから。
私は上手い切り返しが出来なかった。
「俺と直輝の秘密ですから」
そして、言えない理由をハッキリと告げた後で、ドヤ顔を披露する。
だけど、その顔がなんだか冗談だけどイラッとした私は即座に悪態をついてみる。
「じゃあ、夕飯抜きにするよ」
「えーっ!」
「どうする?言う?」
非情だとは思う。
お腹に飼っている虫まで鳴き始めた彼にとって酷だと思う。
だけど。
それでも彼は折れなかった。
「ごめんなさい、男の約束なんです」
「じゃあやっぱりオムライスは無しだ」
「それは勘弁!」
トマトに包丁を突き刺したまま、彼は両手を合わせて本気で私に懇願する。
料理中にやめてくれ。
と思いながら、本気なわけがないのにと私はふうっと温かな息を漏らす。
「仕方ないな」
そういうところ、いいんじゃない?
親友を大切にするところは。
私はコンロのスイッチを二つ止めた。