たったひとりの君にだけ
彼女の瞳に迷いはなかった。
「……はいっ!だから今日の面談はこれで終了です!書類は明日の昼休みにでも書いときます!だから、今日はもう時間余りました!久々に色々お話しませんか?」
手を離した彼女に満面の笑みを向けられる。
確かに、大切なのは彼女の気持ちだ。
私が無理強いしたところで何も生まれない。
2年前、先輩は私の意志を尊重してくれた。
その先輩を尊敬する私が、背中を押してあげなくてどうする。
「場所、ここじゃマズイですよね。会議室行きますか?どうしますか?」
一方的な展開に、即座に頷かずにいる私を襲う、可愛らしい強引さ。
思わず了承したくなるけれど、相変わらず素直じゃない私は未だ悩んでしまう。
「話すだけでも楽になるかもしれないですよ」
「そんなに病んでるように見えるの?」
「病んでるっていうか、らしくないっては思います」
幾度目の一刀両断をされたところで、私は渋々ながら降参することにした。
これ以上、らしくないと連呼されて大打撃を喰らう前に。
「……実加ちゃん」
「はいっ」
「いいよ、ここで。みんな結構帰ってたし、誰も来ないでしょ、ここに」
「え、でも、万が一誰か来たら、」
「いいよ。大した話じゃないんだし」
そう、大した話じゃない。
大した話なんかじゃないんだから。
身構える必要だって、動揺する必要だってない。
飲み物ならいくらでもある。
彼女の言うとおり、久々に、世間話でもすればいい。