たったひとりの君にだけ
それがない時点で、現実に目を向ければ真実はただひとつ。
彼は私を避けている。
すると、瑠奈はカウンターの上に置いていたスマホを操作し始めた。
わかってもらえたというより呆れられたんだなという思いが強いなか、横目で様子を伺っていたけれどすぐに音を立てて放置する。
そして、そのまま瑠奈は片肘をついて、体勢を変える。
ひとつひとつの動作を注意深く見ることになんの意味もないのに、正しくはそうしている自分こそなんの意味もないなと思っていると、瑠奈が心底だるそうに口を開く。
「結局、芽久美は自分が一番可愛いってことか」
ボソッと聞こえた一言は、独り言か否か。
何も言わずに黙っていると、瑠奈が確実にこちらを向いた。
「つまりは自分の手は汚したくないってことでしょ?」
明らかに挑発的な目を向ける。
その視線で意図することが嫌というほど伝わって来るから。
口を噤む他ないと決め込む。
けれど、そんな私の作戦なんて知る由もない彼女は容赦なく切り込んで来る。
「物事は全て自分の思うように進んでくれるって思ってるわけだ?で、少しでも思いどおりにならないとやる気なくすんだ?」
その挑発に乗ったらそれこそ負けを意味するわけだけど。
「へ~、知らなかった」
何故だろう。
そこまで言われるとカチンと来ないはずがない。
「……うるさいな」
「違うの?」
「うるさい」
「それしか言えないの?自分本位な芽久美ちゃん?」
「……っ、瑠奈のバカ!」
「バカで結構。誰かさんには到底及ばないですけど」
「もうっ!」
らしくもなくヒートアップする私とは正反対に、瑠奈は冷ややかな目であからさまに鼻で笑う。
その行動さえ私を苛立たせた。
普段の私達なら。
ここまで言い合えばマスターが止めに入る。
『いい加減にしろ!』と大声を上げて、直後に瑠奈が怒られる。
そして、彼女は至極まっとうな正論に耳を塞ぐつもりで、大袈裟にカウンターに突っ伏すのだ。(ときには寝た振りもする)
けれど、今日はそれすらなく、エプロンを外して椅子に腰掛けてしまったのは。
そして、ついでとばかりにポケットから煙草を取り出して、一本口に咥えて紫煙を吐き出すのは。
恐らく。
というより確実に。
私が間違っているからにすぎない。
いつもと逆パターン。
むしろ、初めてのパターンだった。